弱点と欠点と見所

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日本刀の弱点と欠点と見所

日本刀と聞くと、鬼を切った伝説、岩を切った伝説など切れないものはないような最強のイメージがついています。
しかし、実際には物理的な弱点は存在し、見方による欠点から刀剣鑑賞などで観てもらいたい見所があります。
日本刀の弱点

まず日本刀の弱点をあげると刃側以外からの衝撃、錆、熱があります。

平側や棟側からの衝撃

平地は薄く、構造上弱いです。また岩や電柱など硬い物に棟から強く打ち付ける(棟打ち)と刃切れを起こすと言われております。物理的に説明をしますと、球体など曲面の物は外からの力に強いが、内部からの力には弱い性質があります。鶏の卵の殻がイメージつきやすいと思うのですが、外からの力には強いのですが、内部はヒヨコが出る時に弱い力でも割ることができます。このように形状で考えると棟側からの衝撃に弱いです。(そのためか昔は棟に傷がある刀が高価で取引された話も聞きます。弱点である棟にダメージを受けたにも関わらず折れずに残っているのでその刀は名刀だという判断ではないでしょうか。)

錆び

次に弱点をあげるとすると錆びになります。主に炭素鋼で鉄のため、酸化しやすく錆びやすい性質をもっております。

古刀や現代刀でも酸化被膜がついた刀は比較的錆びづらいのですが、研いだりして酸化被膜がなくなると当然錆びやすくなります。

そのため油をひく手入れが必要です。しっかり手入れが行き届いた刀は錆びません。1000年前の刀が今でもピカピカに光っているのは大切に保管されたり、行き届いた手入れをされていたからです。

熱(火事)

日本刀は焼き入れや焼き戻しが施されて、適切な硬度になっています。

熱を加える(160度から230度)とマルテンサイト(刃の硬い組織)の炭素量に変化が現れます。

長時間160度の温度にさらしたり、短時間でも230度以上の高温にさらすことで、日本刀の組織(柔らかい順にフェライト、オーステナイト、パーライト、トルースタイト、マルテンサイトなどが存在)はより柔らかい組織へと変化していきます(脱炭作用)

最悪の場合、完全に焼き戻し(脱炭)され焼き刃は無くなり、なまくら刀になります。

日本刀の欠点(機能目線)

ここでは実際に武器としてみた時の機能的に欠点となるものをあげます。

刃切れ(はぎれ)

焼き刃(刃文)のヒビ 

マルテンサイトは陶磁器のように硬く、欠けたり割れる性質をもつ。

刃切れがあると、そこの強度は減り、折れたり、変形しやすくなる。

しかし、刃切れの入り方や、地の構造により補い、折れずに耐える場合もある。

目視でわかる場合と拡大鏡を使用しないと確認できないものある。

表面の傷と刃切れの見分け方は角度を変えても亀裂が見えるかどうか。

刃絡み(はがらみ)

鍛え傷(割れ)が刃に出て刃先に届いてるもの。刃先を経由し裏にも現れる場合もあり。

刃切れをヒビとすると刃絡みは鍛え傷のため鍛め目に沿い斜めに入る割合が多い。

ヒビではなく、完全に切断されていない場合もあるので、その場合は刃切れよりは強度は落ちない構造にもなり得る。

烏口(からすぐち)

切先の刃切れや刃がらみ 鳥の口に見えるから。

なまくら

焼き刃がないこと。焼き刃の組織はほぼマルテンサイトだが、火事などの熱で脱炭され、柔らかい組織フェライトやオーステナイト、パーライトなどになってしまったもの。

元来なまくらとは鎌倉がなまり、良い刀の真似をされた刀を示す説や、切れ味がない刀を示す説もありますが、ここでは機能として記載するため、焼き刃目線で解説致しました。

匂い切れ(においぎれ)

刃縁(沸や匂い)が途中で見えなくなるもの。機能面で問題となるものと問題にならない匂い切れあり。

機能面で問題となるのは熱で一部がなまくら状態になったものや作刀時からのもの。(鉄組織の硬度問題)

機能面として問題にならないのは、ただ単に刃縁が見えないだけのもの。(見え方の問題)

例えば硬い砥石やコンパウンドなどの研磨剤などで刃縁を磨くと刃と地の境が見えづらくなります。

この場合は仕上げ研ぎをすることにより復元可能。

駆け出し(かけだし)

刃文が刃先を超えたもの。

のたれ刃で例えると刃文の谷が刃先に抜けてしまったもの。

当然そこには硬い組織はないため、研いでもその部分だけは切れ味のキープが難しくなる。

しかし、研げば形状的には鋭利になるため切れることは切れる。

作当時から駆け出しがあるのは稀と考えますが、基本的には研ぎ減りで発生。

撓え(しなえ)

切先を上、茎を下にしてみた時に横に入るシワのようなもの。

作刀時や作刀後、刀が曲がった時や曲がった刀を戻す時などに生じる。

亀裂のようなものと金属疲労のものがあり、どちらも物理的にその部分の強度は減る。

研いでも消えないものがほとんど。

当然、表面上の傷が撓えに見えたものは研げは消え、鍛え方(練り方)次第でただの鍛え傷となり、強度的に問題ない撓えに見える鍛え傷もあるので注意が必要。

継茎 継中心(つぎなかご)

茎を継いだもの。

現在の溶接のように完全に接合できたものは強度上それほど落ちないが、熱で何かしら付近に影響を及ぼしている。嵌め込んだだけで付け錆びをしたものなどは強度はなく、そこから折れる。

見分け方はX線などを使用しないと難しいとされますが、嵌め込んだだけのものは、音の違いでチェックが可能。

その他、程度によるがそこまで機能面では落ちないもの
膨れ(ふくれ)

層と層が完全に溶着できす、そこにガスなど溜まり膨れているもの。

研ぎの関係で刃文や飛び焼きなどがの硬いところ同じく膨れているなるが、それは欠点である膨れでなく、ただその部分が周りと比べ硬いから残るだけである。軟らかいところは研磨時に削られ、硬いところは削られにくいので残る。全く問題ない。

欠点になる膨れは中身が空洞上のもので、当然そこに強度はなく、膨れているところを研いだり、破るとクレーターのようなものが現れる。ただし、このクレーターも深度などの状況次第で、少ないものはそれほど強度に影響はないが、中身を見てみないとわかない。よって膨れの数や状況の程度による。

誉傷(ほまれきず)含んだ外部からの打ち傷など

敵から受けた傷などを打ち傷ちとか矢疵、切込みと呼ばれ良い傷として誉傷ともいわれるが、

物理的にはその部分の強度が落ちる。

非常に大きな深い傷から峰にちょっととだけある傷などさまざまなので程度による。

埋金(うめがね)

膨れ破れなどを後から埋めたもの

その部分だけ色が変わっていて見分けがつきやすいものや、全くわからないものがあるが、施工方法や埋金の素材により強度に対して何かしら影響するので、こちらも程度による。新版日本刀講座(雄山閣)では実用上さしつかえないと記載されている。

刃こぼれ

刃が欠けているもの。

顕微鏡で見れば研ぎ上りの刃は鋸のように欠けている。

明確な決まりがなく、刃物を扱う人は爪にかかれば刃こぼれとしたり、光の反射で見たりするが、

美術刀剣では目視でわかる程度の大きなものを刃こぼれと呼んでいる感覚有。

研げば基本的になくなるものでこちらも程度による。

鍛え疵(きたえきず)鍛え割れ(きたえわれ)

鍛え疵は鍛錬時にできる疵で鍛え割れは肌が割れたもの

鍛え疵は総称のようなもので、小さい穴状の石気(いしけ)や炭のような小さいものが鉄に入った炭籠り(すみごもり)など含む。

肉眼ではっきりとわかる疵から肉眼では見えづらい疵までさまざま。

無傷無欠点と謳っている刀も顕微鏡などで見れば、鍛え傷や鍛え割れはある。

折り返し鍛錬で何万層にする際にできる溶接していない部分。

中は溶接しているが、外側だけ溶接していないなど、逆もしかり、さまざまで、こちらも程度による。

鍛え傷が多いから曲がりづらいや、鍛え傷が少ないから曲がりづらいとは一概に言えない。

(同じ構造の場合は当然疵が少ない方が強度はあるが、それ以上に鉄の炭素量、交じり方、四方詰めなどの造り込み、板目や柾目などの練り方の方が強度に影響するため)

同じ素材で鍛え方が同じ場合、均一に鍛え傷があるものと 一部分に鍛え傷が集まるものでは物理的には強度的に後者の方が弱く、集中しているところから欠損しやすくなる。

古刀期は肉眼で見える鍛え疵がない刀は皆無といっていいほどなので、それほど鍛え疵に関してシビアに見る方は少ないです。

また気にする方で研いで消せると考える方もいるのですが、こちらは基本的に消えません。

研いで消えても新しい鍛え疵がでる場合もあります。

疲れ(つかれ)

研ぎ減りして、身幅や重ねが作刀時より少なったもの。

研ぎ減りは作刀時から想定されているので多少の減りはそれほど問題ないが当然、構造上減った分、強度は落ちる。

研いで芯金がでる場合と芯金がでやすい造り込みのもの、作刀時から出るものもある。

作刀時から細身の刀や最初から重ねの薄い刀があり、基本的には茎を基準にして推測する。

欠点になるかについてはこちらも元からの減りの程度による。

日本刀の欠点(美術刀剣目線)

物理的な弱点については賛否両論はほぼないと考えますが、この美術的な見方は人それぞれの見方が存在するため、正解なく、様々な良し悪しが存在します。そのためここでは美術刀剣で一般的に言われている主な欠点を記載します。

基本的には美術刀剣目線では上の機能的欠点に内容が「追加」されます

また機能目線(以下機)と美術刀剣目線(以下美)で視点が違うため、欠点になるかの解釈が当然異なる場合があります。

誉疵が欠点とされる(機)かしない(美)かとか、駆け出し基準を刃縁下の刃で見る(機)か刃縁自体(美)でみるかとか、鍛え疵があるものを必ず欠点とする(美)か欠点としない(機)とかです。

それを踏まえ、美目線で欠点とされるものを参考にしてください。

水影(みずかげ)

焼き直しで発生すると言われる模様

刃区の焼きだし付近に斜めに入る。

本来、焼き直した理由(火事など)が欠点とされ、この模様自体が欠点かは難しいところ。

因みに国広はこのような模様が出るのが作風とされている。

焼き落とし(やきおとし)

通常、焼き刃は切先から刃区を越して入るが、刃区より手前で終わること。

欠点として見る方もおりますが、このような焼き落としをあえてしている刀工もいるので

必ずや欠点としてみるかは自由。

機能目線で考えればハバキ付近で刀が折れないための工夫でもある。

偽銘(にせめい/ぎめい)

その名の通り、作者や弟子ではない者が切った銘

悪意のある(人を騙す)ものと善意のあるものがある。

善意とは例えば元に戻す銘(正宗在銘→大磨上げ無銘→村正と偽銘が切られる→正宗と切る)です。

主に偽銘は個人の研究家、鑑定家や組織の鑑定機関などで判断されるが、存命の現代刀工以外は作者証明ができず100%断言できないのが真実。であるだろうの世界。しかし、鑑定の歴史は古く、当時の資料などさまざまな分野で研究し100%を目指す。

機能目線でみる場合は偽銘が直接機能的影響を与えることではない。

大磨り上げ(おおすりあげ)磨り上げ(すりあげ)

銘がある部分の茎から切断し、刀身を短くしたもの。

当然、鑑定が難しくなる。

正宗は多数がこの磨り上げ状態のもので、正宗の在銘は稀。

機能目線では短くなっただけであり、機能的な欠点とならない。

錆び

刀は鉄のため錆びます。

錆びると刃文や鍛え肌など鑑賞ができません。後天的な欠点です。

赤さびは進行するので早めの対処が必要ですが、黒錆の進行は非常に遅いです。

いずれにせよ刀剣専門の研ぎ師に依頼し研ぐことで、新しい顔を見せてくれます。

※茎の錆びだけは落とさないでください(下でも説明します)

茎(なかご)の錆び除去

上と矛盾するようですが、茎の錆びは鑑定する上では非常に大切です。

茎の錆びは基本的に黒色(四酸化三鉄)をしており、赤錆びと性質が違い錆の進行はほぼ無いと考えてください。

この錆びの色で刀の時代を判断できたり、茎は鑢目、銘などさまざまな情報があります。

ここを紙やすりや砥石で削ってしまうと、刀自体の価値が落ちてしまいます。

大磨り上げは大磨り上げでその部分茎の厚みや錆びである程度鑑定ができますが、ここの錆びが全くなくなったり、

茎の厚さまで変えてしまうと完全にアウト状態です。鑑定が非常に難しくなったり、古い骨董価値がある刀の場合は

特に時代の価値、保存されていた希少な価値を失うことになります。

機能目線では赤錆び以外欠点になりません。赤さび進行は油で防止することができます。

擦り傷 ヒケ傷

鞘の抜き差しでできるヒケ傷含め、刀身にできる後天的な欠点です。

刀は丈夫なイメージありますが、刀身に彫り物が加工できるように、刃以外はさほど硬くありません。

硬い刃でさえも鞘についたゴミなどで傷が付いてしまう時があります。少しの汚れを紙やすりなどで触れてしまったら美術鑑賞はできないと思った方が良いです。汚れはベンジンや、無水エタノールで落としてみてください。それでも駄目なら次は打ち粉で落としてみてください。それでも駄目な場合は錆び同様研ぎ師に依頼し研ぐことで、直せます。

機能目線では全く欠点になりません。

日本刀の見所

見所は一般的な美術鑑賞を基本にして記載しております。しかし、美術とは本来、正解や決まりなどないと考えます。

人それぞれの自由な見方が存在すると考えておりますので、下記の内容は一つの鑑賞方法として見ていただければと思います。

姿(すがた)

刀身全体を観ます。

腰反り、中反り、先反りなど刀それぞれの姿があります。

車のフォルムのように、これだけの鑑賞で感動を与えてくれる刀もあることでしょう。

刃文(はもん)

刃文を鑑賞します。姿を観た時と同じように全体の刃文を観たり、細部も是非観てください。この刃文と地の境を「刃縁」(はぶち)といい、顔を近づけ良くみるとそこに「働き」(はたらき)というものを発見できると思います。これは日本刀(真剣)独自のもので、模造刀やナイフなどでは鑑賞できない箇所だと思います。蛍光灯以外の光で見ることができます。

刃文は大きく分けると直刃と乱れ刃の2種類なのですが、さらに分けるとかなりの数になります。

切先の中にも刃文がありこれを帽子と呼びます。

刃縁には匂い(におい)や沸(にえ)のどちらかが必ず存在し、さまざまな光景を見せます。

雲から太陽の光りが現れるような芸術的なものからさまざまな光景を見せてくれます。

地鉄(じがね)

顔を近づけ肌をよく見ると、折り返し鍛錬の模様が見えます。

まるで木の年輪などの木目(もくめ)のような模様です。

木の木目同様、刀も杢目肌(もくめはだ)、板目肌(いためはだ)、柾目肌(まさめはだ)など呼び名があります。

硬さなど性質が異なる「鉄」が層になっているためです。

折り返し鍛錬の「数」でこの層に変化が現れ、折り返し「方」で模様が変わります。

茎(なかご)

茎千両といい、茎を見るとさまざまな情報を得ることができます。初茎の場合は茎の厚さから刀身の現在の研ぎ減りを推測できる一つの指標となります。大磨り上げの場合は磨り上げられる前の今より長い姿について想像したり、当時の姿を想像し楽しむことができます。

ある書籍の影響か一部の方で磨り上げを評価しない方がおりますが、機能的にも全く問題なく、初心茎の出来の悪い在銘の刀より、出来の良い磨り上げの刀の方が美術鑑賞目線でも見て愉しんだり、物斬りの機能目線でも実力も兼ね備えていると評価できるので、一つの情報だけを頼りにすることなく、ご自身で考え感じ良いと思う評価や鑑賞を心がけてください。

その他

自由ですのでご自身で評価、鑑賞するところはご自由に追加してください。良いと思うポイントがあればどんどん評価、鑑賞してください。欠点探しよりも良いところを探す方が多くの刀を愉しめると思います。

研ぎ

日本刀の研ぎには物斬り用の居合研ぎや鑑賞をより楽しむための美術研磨があります。

その美術研磨には2つの研ぎ方があります。(差し込み研ぎと化粧研ぎ)

差し込み研ぎとは伝統ある研磨方法で刃どりという化粧研ぎをしない研ぎです。

化粧研ぎは刃どりをする研磨で、明治期頃から確立された研磨方法です。

それぞれの味が違う鑑賞を愉しむことができます。

白鞘 拵え(しらさや)(こしらえ)

白鞘や拵えは一般的に鞘師という職人がつくります。

白鞘は休め鞘といも言われます。

朴の木で作られどれも同じと考えられがちですが、木の木目がそれぞれ違い、縞模様が出ているものは虎斑(とらふ)模様と呼ばれているものがあります。

拵えの鞘も基本的には朴の木でつくられます。柄には鮫皮(エイの皮)と目貫をつけ、柄糸を巻いてます。

拵えもさまざまな種類があります。

鎺(ハバキ)

ハバキは作刀の後に作れますが、ハバキもさまざまな種類があります。ほとんどが白銀師と呼ばれる職人により作られます。

日本刀は歴史の世界同様、古く、諸説があったり、明確な区別がないこと解明されてないこと、造語もございます。現在でも古くからある名著の影響も感じるため、ここではできるだけそのような偏りがない情報にしてみようと、直接現代刀工、研ぎ師にお聞きしたり、当然、専門の書籍なども参考にしながら、独自解釈を交えまとめてみました。しかし、日本刀はまだ解明されてないこともあるので、この情報もあくまで一つの諸説とし、参考にしていただけると幸いです。
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