アップデート版
日本刀の手入れについて
まず手入れの目的からご説明をさせていただきます。
- 掃除すること
- 錆びの発生を抑えること(防錆)
おおまかに言えばこの2つです。
この「掃除」と「防錆」についてざっくり説明しますと
- 掃除=刀についた古い油は酸化し、そのまま何年もほったらかしにすると固着するので、定期的に掃除します
- 防錆=新しい油をまんべんなく塗ります
よって
刀剣の手入れをひとことで言えば「刀身を綺麗にして油膜をつける」だけでございます。
とはいうものの
手入れがされる前の刀剣の状態は様々であり、何年も手入れがされてない状態、定期的に手入れが施された状態、研ぎ上りの状態など多様な状態が想定されます。
そのため具体的な手入れ方法となるとそれに合わせ、多少はやり方を変える必要があることでしょう。
ここでは弊社の手入れ方法を説明させていただきますので、一つの手入れのやり方として参考までにどうぞご覧くださいませ。他社様含めインターネット上でもやり方は掲載されてますのでそちらも併せてご参照いただき、最適な方法をお選びください。
手入れのやり方
まずは基本的な手入れ方法を記載します。
工程
- 事前準備を整えます。道具を用意し、周辺の片づけ、腕時計、指輪等のアクセサリーを外し、手洗い、手の水気を完全にふき取ります。
- 刀を裸にします。鎺も必ず外します。目釘は、なくさないよう柄の目釘穴に嵌めておきます。
- 鎺元の汚れ、塵、茎の錆粉末等をそのまま拭わないようにまずは鎺元付近から茎尻方向へカシミヤティッシュ等でホウキで掃くように拭います(刀身へのヒケ傷防止)画像参照
- その後やさしく力まずに、刀身についた古い油を新しいカシミヤティッシュで拭います。(この作業をせず、油がついている状態で下の5の打ち粉を使うと打ち粉が塊となりヒケ傷の原因となります)
- 打ち粉や無水エタノールをつかい古い油をとります。(油がないこの状態が刃縁の働き、映り等がよく見え美術鑑賞できる時です)
- 新しい油を刀身にぬります。
- 切先は塗りずらいので、よくやります。棟も忘れずに。
- たっぷり油がついていると白鞘を痛めることがあるので、カシミヤティッシュでふき取ります。この油で鎺元付近を塗ります。
- 手についた油で茎を塗ります。
- 鎺、柄など組み終了です。
拭う方向の参考画像
上記工程は基本スタイルなのですが、下の表のように刀剣の状態は個別に違いますので、それに合わせ多少やり方を変えています。横の列は刀剣の状態、縦の行は手入れ工程、それによるやり方の違いを比較した表です。
スクロールできます
工程/状態 | 一定の手入れが施された刀剣 | 汚れなどが目立った刀剣 | 鍛え割れ、膨れ破れなど疵がある刀剣 | 研ぎ上り |
---|---|---|---|---|
古い油を取り除く | 無水エタノールなら一から二回程度で十分、打ち粉を叩くのも数回で十分です。 | 順番として無水エタノール(又はベンジン)からやり、それでも取れなければ打ち粉を使用しています。注意点はあまり強い力を入れないことで、理由は汚れに交じった硬い塵、錆、打ち粉の塊で刀身にヒケ傷を作るからです。力まず何度か下拭いし時間をかけても汚れが落ちそうになければ、研がなければ綺麗にならない状態の可能性があります。因みに黒錆は進行しづらいですが、赤錆びは内部に入っていきますので早めに研ぎに出すか、そこに油をたっぷり染み込ませ、古い油を取り除くことに固執せず、これ以上酸化させないようにしておきましょう。汚れているからといって絶対にやってはいけないのはコンパウンドや紙やすりです。取返しのつかないことになります。 | 凹んでいてクレーターとなっています。ここに錆の粒子、打ち粉の粉、砥石の粉さまざまなものが入っている可能性があります。この中の汚れを取るのは難しい(取る必要はない)ですが、できるだけこの周辺は注意して拭いをする必要があります。そのまま拭うと捲れ含め何かの拍子でその周辺にヒケ傷が発生する可能性が高いからです。 | 稀に鍛え疵に砥石の粉や鉄粉が入っていたり、目に見えない程度の錆びが疵口から吹いていることがあります。研ぎ上りのためヒケ傷が非常に目立ちますので、ゴシゴシするのは禁物です。できればその周辺は注意して優しい拭いを心掛けてください。 |
新しい油を塗る | 鍛え疵が少ない刀身なら油を一定方法にサーッとゆっくりやるだけで塗れます。鍛え疵が多いもの(例えると金房のような肌など)、研磨含め肌の表面が荒れているものは、表面積の関係からも速度も変える必要はありますし、方向も変えてあげたほうが、良い場合があります。私の場合はたっぷり油を布につけ、親指で何度か押して入れ込むような動作をつけ、まんべんなく刀身に油をぬります。その後に多めについた油をカシミヤティッシュ等で拭きとります。かなり拭き取っても薄く油は残っているものです。被膜になっていれば問題ありません。顕微鏡で見ると綺麗な刀身も凹凸は存在します。 | 上の作業で取り除けていると思いますので油塗りに関しては特にありません。他の刀身の状態を参考にして油を塗ってください。 | こちらも古い油を取り除く時と同じで注意し油を塗ります。たっぷり油を布につけ、親指で何度か押して入れ込むような動作をつけ、まんべんなく刀身に油をぬります。その後に多めについた油をカシミヤティッシュで拭きとります。かなり拭き取っても薄く油は残っているものです。被膜になっていれば問題ありません。 | 鍛え疵から錆びが吹き上がることがあります。研ぎ上りは非常に錆びやすいので、最初の半年間は月に1回ほど手入れをして、その後は通常通りの頻度で構いません。他の刀身の状態を参考にして油を塗ってください。 |
何年も手入れをしていない方への動画はこちら↓
手入れがされてなかった刀剣の初回の手入れの参考にしてください。
こちらの私の旧動画は解説しながら(実践する場合は唾が飛ぶため話しながらは厳禁)やっていたせいか、同じ面を二回ほどやっていたり、毎回の「一般」手入れとして見た場合は、かなりやり過ぎになってしまいます。そのため一度丁寧な手入れが施さている刀剣については、毎回こんなに拭いをする必要ありませんのでこれを一般の毎回する手入れとして見ないようお願いします。
油塗りについても、鍛疵が少ない綺麗な刀はサッと油を塗ってあげるだけで問題ありません。たしか動画の刀剣は小さい鍛疵が多い古刀で以前に研ぎ上がりのものに錆びを発生させた経験、手入れをやってない人向けに念入りにやっていた記憶があります。(2年以上前のため、詳細を思い出せなくすみません)
こちらが一般的です↓しっかり手入れをされている刀剣の毎回のお手入れはこんな感じが理想です。参考にしてください。刀剣の状態にあわせ最適な方法をお選びください。
新しい無水エタノール版、刀に合わせた手入れ方法の動画は作製したいのですが、個体差がある刀剣の「一般」という手入れ方法がなかなか私にはまとめづらく、動画ではなく、この本WEBページを新たに制作しましたので参考にしていただけますと幸いでございます。
必要な道具
目釘抜き
目釘抜き(細穴等は分解して使用可)
打粉
打粉の代用品(無水エタノール)
ぬぐい紙
ぬぐい紙の代用品(カシミヤティッシュ)
刀剣油
その他(木槌)
その他(柄抜き用当て木)
その他(拭い紙入れ)
その他(刀枕)
- 目釘抜(めくぎぬき) 刀の目釘を抜く道具で、真鍮製のものや竹製のものなどがあります。
- 打粉(うちこ)代用品は無水エタノールや角粉 砥石の粉を綿、絹でくるんだもので、刀身をたたくと、白い粉が出ます。
- ぬぐい紙 代用品はカシミヤティッシュ 揉んで軟らかくし、砂けや、ごみなどがついてない綺麗なものを3種類用意します。したぬぐい用、うわぬぐい用(打粉又は無水エタノール使用)、新しい油ぬり用
- 油 錆を防止するために塗る油で、刀剣油や丁子油とも呼ばれます。鉱物油でもOKだが、酸性のものや添加物に注意
- その他 刀枕、木槌などが、必要に応じて用いられます。
手入れの頻度
推奨は半年に一度とされております。一年に一度は必ずしてあげてください。研ぎ上りは非常に錆びやすいので、最初の半年間は月に1回ほど手入れをして、その後は通常通りの頻度で構いません。
注意点
- 怪我をしないようにしてください
- 唾が飛ぶので、話をしながら手入れは厳禁です。できれば雨の日の手入れは避けるか、除湿をかけて手入れすることをおすすめします。
- 手入れ前に手を洗い綺麗にし水気は完全に取り除いてください。
- 油は塗り残しのないようにしてください。ライトで確認できます。差がわからければ、一度無水エタノール等で差をチェックして目で覚えると便利です。
- 油の塗りすぎは白鞘を痛めることになりますので、塗りすぎも良くないです。
- 鎺、茎の汚れや塵で刀身を傷つけることがあります。拭い紙等、分ける工夫、誤って、刀身用の拭い紙を茎につけてしまったら、刀身には使用せず茎専用の拭い紙にする必要があります。付近では鎺元から茎尻方向に払ってください。逆方向だと塵が刀身につき、ヒケ傷を発生させやすくなります。
- 強い力で拭うと刀身にヒケ傷を発生させてやすくなります。
- 茎を柄に入れる際、ハバキが少し下がった状態でパチンと柄尻を強く叩くとハバキにより刃区の刃が欠ける場合があります。傷防止の観点からもハバキを固定し、親指等でおさえながら叩くことをおすすめしております。
- 研ぎ上りは非常に錆びやすいので、最初の半年間は月に1回ほど手入れをして、その後は通常通りの頻度で構いません。
- まれに油を塗る時、油を弾く箇所があります。そこの何らかの被膜がまだ残っている可能性が高いです。無水エタノール等で再度拭き取ってください。またそれでもとれない場合、水にセスキソーダ又は過炭酸ナトリウムを入れ良くかき混ぜてアルカリ水を作り、それで拭うと取れる場合がございます。このアルカリ水は研磨時に使用するもので、錆を発生させないものなのですが、使用後必ず水気を完全に取り除き、刀身に油を塗ってください。刀身以外の金具にアルカリ水が触れないようにも注意してください(銅はアルカリに反応し変色します)
最後に
細かく書くと、最初は手入れを面倒に思うかもしれませんが、傷や錆を発生させてなければそれでよく、何より愉しむためにやるのが一番だと考えております。
油を取り除いた刀身をライトにあて鑑賞しますと、素晴らしい表情を見せてくれるものです。
油がついていると刃縁は見づらく、映りもなかなか見づらいです。手入れの時に本来の刀の表情を見ることができます。
ぜひ、愉しんで手入れをしていただければと思います。
コメント