手の込んだナマクラ刀
刀の欠点の一つに鈍刀があります。
こちらのページは研師や現役の同業者でも見逃した良くできた「なまくら刀」の見極め方を書きます。
刃をLEDや白熱灯に透かせば判断できるというチェック方法が通用しなくなりました!
そもそもそんなものがどこで出回っていたのかいうと、、。ヤフオクです。個人出品のものでした。(私が購入してしまいました)
特にトラブルになった訳ではありませんが、これは危ないと思い警告を込めてこのページを作りました。
どのような鈍刀かと言うと、匂口がある精巧な描き刃文(繕い刃)であり、LEDなどで照射しても本物の刃のように匂口が白く浮かび上がるものでした。
他の人に見せたり、研師に研磨依頼、自分でも細名倉や内曇りで研いだり、写真撮影、実験したりと考察するまでかなり時間がかかってしまいましたが、研磨前後の写真や見極めるポイントをこちらのページで記載させていただきます。
まずは経緯から
2023年6月に写真で見たかぎり綺麗で銘もなかなか良さそうで兎に角安いので入札、落札。
開封。
刃に何か違和感を覚え、後日、同業者2名に見てもらうも、焼き刃はあり、良い刀じゃないですかぁ、問題ないでしょうとコメントをもらう。
研ぐ予定もあったので、お付き合いのある研師に送り見てもらうと同じく問題ないとのこと。
しかし実際に研いでもらうと焼き刃がないとLINEで連絡を受ける。
やはりそうかと、違和感は的中したことに少しは自信はつくも、刀が、、、
台無しになったことが確定し同時に失望感に襲われる。(研ぎ途中で哀れな鉄の棒と化してます)
因みに同業の方は仕事合間の大体1分程度の観察であり、研師は初見どれくらい見てくれたか不明ですが、いざ研ぎの順番となり仕上げに入る前の段階で違和感を感じ、色々と検証してくれたようです。
こちらが写真(購入時研磨前)
↑蛍光灯に見えますがLED型です。普通に匂口があらわれます。(よくある描き刃文だと刃がもっと黒っぽくなる傾向があり、匂口がでない) 白熱灯でも見てみます。
ライトを変えたり、撮影方法を変えて見てみましょう。
一見、直刃の焼き刃があるように見えます。
研いでみましょう。
その前にまずは通常の焼き刃がある刀の研磨写真をご覧ください。(備水砥)
↓そしてこれが鈍刀の研磨後の写真です。(内曇り砥 下地砥石の順番 金剛→備水→改正→名倉→細名倉→内曇り 内曇りが一番焼き刃が確認できる)
焼き刃はありませんでした。
刀によりますが、焼きが強ければ金剛でも刃文はしっかり見えるし、備水や改正砥で刃文が出るとか、個体差がありますが、この鈍刀は改正でも、細名倉でも内曇りでもでませんでした。(研師からは細名倉仕上げで私も細名倉から刃艶まで試し研ぎました。この可哀そうな状態になると鈍らの手前というか焼きが甘い程度なのではないかという救済心が芽生え始め、勉強、研究がてら下手ですが、研磨をやるきっかけとなる)
湾れっぽいのも見えるのですが、刃ではなく、鍛えによる層、本三枚、四方詰の異なる鉄素材の層、または本来の焼き刃跡のいずれかと考えます(熱で完全には焼き戻されず、地より刃が僅かに硬いくらいで地と刃に硬度の差がない状態)
冴えない刃でもこの内曇りの段階でしっかり、砥汁、水滴を完全にとり光線に当てれば、通常匂口は浮かび上がります。
しかしこの刀は浮かびあがりませんでした。
そもそも匂口が白く浮かびあがるかという「判断方法」は今後もうその刀を研いだ人以外、刃があるかの証明※1ができなくなるかもしれませんので、鈍ら刀とは何なのかをここで根本的に考え、この新種の鈍ら刀を見極めてみましょう。
※1 下の有料コンテンツで説明してます(鑑定方法については無料で簡易説明してます)
なまくら刀の見極め方
そもそもナマクラとは何なのでしょうか。 一般的にナマクラとは切れ味が悪いという意味で使われているのではないでしょうか。 安物のフルーツナイフも研げば最初は切れ味は良いものです。 何度か切ると切れ味が悪くなってきます。包丁も切れ味がすぐ悪くなるものと、切れ味が長続きするものがあります。 ナマクラかナマクラでないかは、この切れ味を維持「できない」のか、「できる」のかがポイントになり、 その切れ味を維持するためには、刃の部分に「適度な硬さ」が必要なのです。 柔らかい鉄の刃でも研げはフルーツくらい切れます。竹でも紙が切れます。しかし、切れ味の維持には限度があります。 焼き入れされた鉄、(正確にいうと炭素が入った炭素鋼でないと焼き入れができない)はガラス並みに硬くなります。 同時に硬くなるとガラスのように割れる性質も持ち合わせます。鉄は柔らかければ曲がり、鉄でも硬くなると曲がらずに割れるのです。硬くなりすぎると靭性も失われ、脆くなる性質を持っています。 刃を鋭角に研げば当然、先端は鋭角に尖っていきます。 しかし鋭角を維持する先端の限界があるため、限界点に達すれば先が曲がるか砕けるかでそれ以上尖らせることはできません。硬いといっても少しはやわらかみ(展延性)を持っているため砥石が当たる方向の逆側に先端は微妙に曲がります。 包丁やノミ等をご自身で研いだことがある人はわかると思いますが、これは刃が捲れるという状態です。 反対側を少し研ぐと捲れ(バリ)はとれます。顕微鏡で切れる状態の刃を見るとノコギリのようにギザギザになっているようです。 刃は適度に硬ければこの先端の形状を保ちやすく切れ味がキープでき、柔らかい刃は簡単に先端の形状が変形してしまい切れ味がキープできなくなります。 よって、「柔らかい刃」が「なまくら」だということになります。 なまくら(柔らかい刃)の原因としては作刀時からの鍛錬時の脱炭によるもの、焼き入れに失敗したこと(焼き入れ温度、必要炭素量の低下、なんども焼き入れすると鉄がバカになるという業界用語有り)、焼き戻しの失敗(やりすぎ)、作刀後では火事に遭遇し、熱により焼きがなくなったこと、もともと腰の低い焼き刃でその刃がなくなるまで研ぎべりしとたこと、などが推測できます。 鈍ら刀=「柔らかい刃をもった刀」 この鈍ら刀を見極めるには、その柔らかさをチェックすることで判明します。 柔らかさ、硬さを確かめるには刃の部分に傷を付けることや力を加えることチェックできます。 刃文に地と同じ硬さの物で傷つければ、傷の深さで現れます。モース硬度で素材が数値化されているように柔らかければ傷つきやすく、それより硬ければ傷がつきにくいです。(ダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨かれないのと同じ原理) 力については刃先に力を加えれば捲れます。 しかし、購入前にそんなことできませんよね。購入後でも愛刀にそんなことしたくないですよね。 購入前としては、あったとしても画像くらいしか材料がないはずです。 弊社や他社の刀剣商の写真、ヤフオクでも撮影されたスマホなどで撮った写真、顕微鏡等の専用機器を使わず、スマホのカメラとか一眼レフの一般的な写真で見極めることはできないものか。 、、、。 試行錯誤しながら撮影の実験をしました。 、、、。 見た目だけで判断するポイントを一つ見つけたので、ここに書きます。
鈍ら刀の見極め方
それは
「働きの有無」です
「働き」です。
刃の働きをご覧ください。(比較した画像は下の有料コンテンツ内で多数見比べる事ができます。計59枚)
今回の鈍刀は匂出来なのか、沸出来なのかもわからない匂口でした。
その匂口付近には軍刀(あるものあるかもしれませんが、比較的少ない)以外の真剣には何かしら働きがあるものです。
砂流し、金線、金筋、葉、足など。
刀剣商のHPの写真やヤフオクでも丁寧に写真を掲載しているところはこの「働き」が確認できるはずです。
そのため、この働きを拡大写真で確認できなければ、怪しいわけです。
拡大写真と言ってもルーペなど必要はありません。スマホでもレンズを近づけ働きを映そうと思えば映せるのです。
恐らく、今回のなまくら刀はサンドブラストとマスキングテープなどでやったのではないかと予想しました。
また新たに手の込んだものができるかもしれませんが、本質をつかんでいれば騙されることはありません。
そして、騙す方もあまり手間を加えることができないはずです。労力と利益を天秤にかけるので。
以上長くなりましたが、なまくら刀の見極め方でした。
まとめ
働きが映ってない刀はリスク有り
ヤフオクやインターネットの写真だけで判断する場合は働きが確認できるくらいの近くに寄った写真が購入に必要になりますね。
言葉だけではわかりづらいから画像で見たい、働きとはどれのことか、鈍らと正常な刀を比較した写真が見たい、写真以外の判断材料も知りたい、まだ不安だという方には下に有料コンテンツをご用意しました。(描き刃文と正常の刃文を顕微鏡で見比べた写真等、比較構成になっております。画像計59枚)
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有料ではございますが、間違って鈍刀を購入するリスクや損失を考えれば非常に安いと思います
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